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  • 2017.12.29

定型約款と三層構造について

村 上  公 一

  1. 定型約款の性質
    改正法によって新設された定型約款(548条の2~548条の4)の制度は、 従来の約款法理をとりまとめたものではなく、約款の一部を切り取って、定型約款として規律している。今回は、この点のみについて言及する。
     
  2. 約款の問題性(契約意思の希薄さ,附合契約性)
    (1)  取引界には,各種の定型化された「約款」が存在し,利用されている。約款は,約款準備者[1](事業者)にとって新種の取引類型の形成,取引内容の定型化,事務負担の軽減などにつながるという利点がある。
    (2)  しかし,約款取引では,契約書に小さい文字で多数の条項が書かれている場合があり,約款が契約書と分離されて別冊になっている場合も多い。契約時(あるいは申込時)に約款が手元にない契約において,約款が後日交付されるケースもあれば,後日の交付がないケースもある。事実の問題として,相手方[2]にとって,「個々の条項を読んでいなかった。」という実態があり,読んでも理解しにくい。
    (3)  また,相手方にとって,条項について交渉する余地がないため,セットとして応諾するか否かの自由しかなく ,結果として条項が事実上押しつけられるという性質(附合契約性)がある。この点も通常の契約とは異なっている。
    (4)  伝統的な契約法理では,個人の自由な判断による意思決定とこれによる双方の合意によって契約が成立し,そうであるからこそ,これに拘束されるものとされていた。しかし,約款取引では,このように,伝統的な観念における契約意思(互換的地位にある対等当事者間の協議・交渉・熟慮の結果としての合意)による契約とは隔たっている。その特殊性に鑑み,立法や解釈において,いかなる配慮がされるべきかが問題になる。

  3. 諸外国の状況
     ヨーロッパ諸国[3]や韓国[4]では,日本より早く,単行法又は民法典の一部として,約款規制法が制定された。日本では,古くから,約款をめぐって裁判例や学説(約款論)があり,行政的規制[5]や司法的規制はあった。立法的規制[6]は乏しかったが,消費者契約法(平成12年法律第61号)は,「消費者契約」という切り口によって約款も規制する法律である[7]

  4. 改正審議
      契約法を抜本的に改正して現代化するのであれば,約款に関する規定を設けるべきであるという意見が強かった[8]。法制審議会民法(債権関係)部会では,事務局は,約款規制を設ける方向で提案し[9],不当条項規制についても検討対象とした[10]。しかし,審議の過程で,経済界は,約款規制の立法化について反対し,特に「事業者間契約」(いわゆるBtoB)を約款規制の対象とすることに強く反発した。そのため,部会における取りまとめは著しく難航し[11],事務局の提案内容も変遷した[12]。約款についての結論を留保したまま「要綱仮案」が取りまとめられるという異例の展開になった。最終的には,定型約款(548条の2~4)の制度が設けられた。これは,約款全般についての定義や準則をまとめたものではなく,妥協の産物として,約款とされるものの一部を「定型約款」(新用語)として取り上げ,「定型約款」に該当するもののみを規律の対象にした制度である[13]

  5. 三層構造
     定型約款の該当性,その広狭については,今後,個々の事案に即した改正法の解釈運用において,議論がなされ,裁判例も蓄積されるであろう[14]。しかし,いずれにせよ,約款が二分され,「定型約款に該当しない約款」が大きな領域として存在する。その結果,規律の構造としては,以下の「三層構造」になる[15]
    (1)  通常の契約意思(個別的合意)による契約→民法の一般的規律
    (2)  「定型約款に該当しない約款」→従来の明文なき約款法理が適用される。
    (3)  定型約款→定型約款の規定(548条の2~4)が優先的に適用される。

  6. 規律の相互関係
      このように,定型約款では,定型約款の規定が優先的に適用され,「定型約款に該当しない約款」では,明文なき約款法理が適用される。もっとも,定型約款の領域においても,約款法理を踏まえて定型約款の条文を解釈し,あるいは条文の規制がない事項(たとえば解釈法理)について約款法理を用いることができるはずであり,他方で,「定型約款に該当しない約款」においても,個々の事案に応じて定型約款の条文を類推適用することは構わないことである。その意味で,相互浸透の可能性が考えられる。また,学説上の約款論と判例の基本線とは乖離があり,約款論と定型約款制度との間にも不整合が生じている。いろいろな意味で今後の揺れ動きがありうる。

以上

[1] 「約款準備者」には,「約款作成者」・「約款設定者」・「約款使用者」などの呼称がある。

[2] 「相手方」についても,「約款受領者」・「顧客」などの呼称がある。

[3]  西ドイツにおいて,約款規制法が1976年に制定され,東西統一後のドイツにおいて,2002年にドイツ民法典(305条~310条)へ取り込まれた(部会資料42「比較法資料」・別冊NBL146号160頁)。

[4]  韓国では,1986年に約款規制法が制定された(日弁連消費者問題対策委員会『調査報告書:韓国の消費者政策』(2009年9月)参照)。

[5] 法律の規定に基づき,約款による取引が主務官庁の認可等によるコントロールの対象になる場合がある。具体例としては,保険約款,運送約款,電気・ガスの供給約款,郵便・信書便の約款,有料放送契約約款,信託約款,倉庫寄託約款,旅行業約款,自動車運転代行業約款など。

[6]   日本では,過去において,立法的規制は非常に少なかった。商法739条(海上運送人の責任についての免責約款の制限)など僅かな例外がある。

[7]   消費者契約法は,「約款」であるか否かにかかわらず,消費者契約の「条項」に関して規律するが,実際上,その大きな適用場面は,約款である。

[8]  民法(債権法)改正検討委員会及び民法改正研究会の改正案は,いずれも約款に関する規定新設を提案している。

[9]  部会資料11-1,第11回部会議事録

[10]  部会資料13-1,13-2

[11] (第1ステージ,中間的論点整理まで)部会第11回,第23回,第26回/(第2ステージ,中間試案まで)部会第50回,第51回,分科会第5回,部会第67回,第71回/(第3ステージ,要綱案まで)第85回,第87回,第89回,第93回,第96回,第99回

[12]  事務局案における規律対象の名称も,「約款」→「定型条項」→「定型約款」と変遷した。

[13]  潮見『新債権総論I』35頁

[14]  出発点としての定型約款の概念は比較的緩やかに認めてよいとの意見もある(中田裕康『契約法』38頁)。

[15] 「定型約款の定義について,定型取引ということで一定の絞り込みを掛けるという考え方が出されているのですけれども,このような絞り込みというのは,一方で明確性を極力確保するという点があると思いますけれども,従来の約款の議論で言われていたものと比べると,範囲が狭くなっていると思います。そうしたときにどうなるのかということですが,先ほど来,50年の約款法学を無にするとは言わないけれども,それに目を閉ざすものではないかという指摘もございましたけれども,それが完全に否定されてしまうのかということです。解釈を通じて転回(ママ)していくということはあると思いますが,それとともにこれを絞り込むと,定型約款についての規律と,それから従来それ以外についても含めて展開されていた約款法理なり約款についての数々の考え方とが併存することになる,少なくとも定型約款についての規律が設けられることで従来の考え方のすべてを打ち消すというものではないと思います。(中略) そういう意味では個別の合意,それから従来の約款で言われていたような議論は,なお解釈として展開する,一種の二層に更に定型取引に関する定型約款という三層目が付いていると,そういうものとして展開していくことになるのではないかと思います。」(沖野眞已発言・部会第98回議事録18~19頁より抜粋。債権法研究会『詳説改正債権法』391頁参照)

(2017年12月29日)

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