神戸きらめき法律事務所

初回法律相談 30 分無料 078-326-0151 平日 9:00〜18:00

24 時間メール受付お問い合わせ

新着情報

  • 法律情報
  • 2017.12.29

債権の譲渡制限特約について

村 上  公 一

  1. 債権の譲渡制限についての制度変更
     本年5月に成立した債権法の改正(平成29年法律第44号。以下「改正法」という。)は、施行日が平成32年4月1日と決まった。現在、様々な解説書が発行され、説明会や研修会も開催されている。法学部や法科大学院の学生にとって、既に重要な学習テーマになっていることは言うまでもない。改正法の中でも、債権の譲渡制限の制度については、学習者にとって理解が困難な部分があると感じるので、ここで取り上げてみたい。

  2. 改正法466条
     改正法466条の規定は次のとおりである。
    (債権の譲渡性)
     第466条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
    2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
    3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
    4 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。

  3. 「譲渡制限」の意味について
      同条第2項では、譲渡禁止とは区別されたところの狭義の譲渡制限を観念し、両者を併せて広義の譲渡制限として整理している。この語法は、従来なかったものである。そこで、譲渡の「禁止」と区別されるところの狭義の譲渡制限とは何かが問題となる。
     いうまでもなく、債権者・債務者間において債権譲渡を部分的に禁止する特約(たとえば、債権譲渡の時期、相手方、方法などを限定する特約)を含めて債権譲渡にいろいろな態様の制限を設ける特約は、契約自由の原則により有効である。そして、特段の先入観を持たずに「制限する」の文言を解釈するならば、譲渡を絶対的に禁止せずに譲渡について何らかの制約を設ける特約を広く意味すると解釈できる。そうだとすると、同条3項では、当該債権譲渡が当該制限に抵触しているか否かにかかわらず、債務者は、単にその譲渡制限特約の存在を知って譲り受けたにすぎない第三者に対しても、履行拒絶を主張できる帰結を導くことになるが、これは不合理である。また、譲渡制限の語義をそのように広く解するならば、当該債権譲渡が当該制限に抵触しているか否かを問わず、債務者は、改正法466条の2の規定によって供託ができることになるが、これも不合理な帰結である。
      しかし、立法担当者は、ここでいう譲渡制限の意味として、いろいろな譲渡制限を広く想定しているわけでないようである。明快な説明は見当たらないが、債権譲渡自体は禁止せずに、当該債権の譲渡があっても、債務者は、なお譲渡人に対して弁済その他の債権消滅行為をすることができる旨の特約を含むことを考慮に入れて譲渡「制限」の語を採用したようである(潮見佳男『新債権総論II』387ページ参照)。しかし、この条文には、そのように解釈できる説明や定義がないのであり、立法担当者の意図が読み取れるような文章表現になっていない。あえて付言すると、狭義の譲渡制限特約を必要とするような社会的事情(経済界における実績や需要の多寡など)が見えないまま、本条において狭義の譲渡制限特約を取り込む立法化がされたという問題も指摘できよう。

  4. 「意思表示」という表現について
      改正法466条2項は、現行民法における表現を踏襲し、譲渡制限の「意思表示」という表現を採用した。その理由として、単独行為(遺言など)によって発生する債権については、その者の単独の意思表示によって制限することができるため、「特約」という名称が適当ではない場合があることを考慮したと説明されている(部会資料83-2の23ページ)。しかし、単に「意思表示」と表現したのでは、要件事実の一部だけを示したにすぎない。その表現によって、あたかも一方当事者の単独の意思表示によって譲渡制限の効果が当然に発生するかのごとき誤解を招きかねないという難点もある。改正作業の中で現行民法の文章表現を含めて見直すべき機会がありながら、踏襲すべきでない文章表現を踏襲したことは残念である。例外的事態にとられわることなく、譲渡制限の原則的な態様としての「合意」や「特約」などの語を用いてもよかったのであり、仮に例外的事態を包摂できるような広い表現を必要としたのであれば、「旨の意思表示をした」のかわりに「旨を定めた」とか「旨の定めを設けた」という表現を採用することも不可能ではなかった。

  5. 債権の流動化が促進されるのか。
      改正法についての解説書の中には、改正法が、譲渡禁止債権の譲渡を無効としていた従来の物権的効力説を転換して相対的効力説を採用し、譲渡制限が付された債権の譲渡を有効としたことによって、債権の流動化が促進され、譲渡制限特約付き債権の譲渡による資金調達も容易になると前向きに評価しているものもある(債権法研究会『詳説改正債権法』(208ページ以下)。しかし、大きな疑問がある。というのも、当事者が債権譲渡を制限したい場合には、今後ともほぼ例外なく譲渡禁止特約が採用されると思われ、それとは異なる内容の譲渡制限特約が普及することは考えにくい。そして債権者が譲渡禁止特約に違反して債権譲渡をしたならば、その行為は債務者との間で債務不履行を惹起し、契約解除の問題が生じる。また、第三者が譲渡禁止特約付きの債権を譲り受けることは紛争のリスクを引き受けることになりかねない。また、金融機関としても、譲渡禁止特約付きの債権について譲渡担保権の設定を受けることは実務上受け入れにくい。

  6. 立法担当者の説明
      この点に関しては、改正の審議においても、立法担当者側から歯切れの良い説明を聞くことはなかった。たとえば、内田貴参事官(当時)は、部会の審議において次の発言をしている。「それから,もう一つ,譲渡禁止特約という合意をしておきながら,その合意に違反して契約違反を犯してまで譲渡し,資金調達するということ自体がやはり難しいのではないかという御指摘が佐藤関係官からもありましたし,ほかの委員,幹事の方々からも御発言があったかと思います。ただ,もし,譲渡を禁止するという特約を当事者が置いた場合には,その効力はこうであると法律で定めてしまえば,譲渡自体はもはや契約違反ということにはならないのではないかと思います。これは特にコンプライアンスとの関係で,譲渡禁止特約に違反する譲渡というのが問題を生ずるので,実際上,行われないのではないかという御指摘も実務家から頂いているのですけれども,特約の効力を法律が法定するという形になりますので,そこはクリアできるのではないかという感じを持っております。」(部会45回会議議事録7頁)   

  7. 法務省民事局の広報資料より
      法務省民事局(立法担当部局)は、このような論拠の脆弱性を気にして弁解に努めていることが窺える。
    以下のウェブサイトに掲載された『民法(債権関係)の改正に関する説明資料-重要な実質改正事項-』という広報資料(26ページ)に関係する記述がある。
    http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

  8.   この広報資料において、法務省民事局は、「実務上の懸念」と題して、「譲渡制限特約が付された債権の譲渡が有効であるとしても、債権者・債務者間の特約に違反したことを理由に契約が解除されてしまうのではないか? 解除ができるとすると債権譲渡をしたために取引を打ち切られるリスクがある。譲受人にとっても、解除によって債権が発生しないおそれがあるため、そのような債権を譲り受けるのは困難。→ 資金調達の円滑化につながらないおそれがないか?」と問題提起する。そして、次のように言う。「改正法では、債務者は、基本的に譲渡人(元の債権者)に対する弁済等をすれば免責されるなど、弁済の相手方を固定することへの債務者の期待は形を変えて保護されている。そうすると、以下の解釈ができると考えられる。
    ・譲渡制限特約が弁済の相手方を固定する目的でされたときは、債権譲渡は必ずしも特約の趣旨に反しないと見ることができる。→そもそも契約違反(債務不履行)にならない。
    ・債権譲渡がされても債務者にとって特段の不利益はない。→取引の打切りや解除を行うことは、極めて合理性に乏しく、権利濫用等に当たりうる。」

     ここにいう「譲渡制限特約が弁済の相手方を固定する目的でされたときは」の意味が問題である。仮に「債権譲渡はしてよい。しかし、債権譲渡があっても債務者は依然として債権者(譲渡人)に対して弁済することができる。」という譲渡制限特約が付されていた場合は、債権譲渡自体が債務不履行を惹起しないことは異論がない。しかし、これを述べただけでは疑問に答えたことにはならない。また、「債権譲渡がされても債務者にとって特段の不利益はない。」というのは共感しがたい。債務者にとってみれば、弁済先が確知できず、リスク回避の方策を模索しなければならず、事実調査や法律相談が必要になるなどの状況に直面するはずである。

  9. 「弁済先固定」という論理について
      この広報資料では、「弁済先固定」という論理を重要な柱にしており、改正法の解説書にも、譲渡制限特約の相対的効力説を「弁済先固定」の趣旨に置き換えて理解するものがある(債権法研究会・前掲213ページ)。しかし、改正法のもとにおいても、弁済先が固定されるのは譲受人が悪意又は重過失の場合に限られており、譲受人が善意かつ無重過失の場合には、譲渡人への弁済はできない制度設計になっている。そのうえ、債務者にとって、譲受人の主観的態様を確知しにくいため、選択可能な行動が直ちに明らかにならないという問題もある。他方、譲受人の主観的態様にかかわらず譲受人への弁済は常に可能であるから、二重払いのリスクを回避する方策として、「判断に迷ったときには譲受人に弁済すべき。」という実務指針が生まれる可能性すらある。

  10. 重過失の認定について
      実務上、譲渡禁止特約は、当該債権の発生原因を定めた基本的な契約書そのものに条項として明記される例が多い。たとえば、工事請負代金債権であれば工事請負契約書そのものに明記される。事実認定の問題においては簡単な定式化はできないものの、そのような事情からすると、譲受人が、債権の発生原因を定めた基本的な契約書を見ないで当該債権を譲り受けた場合、あるいは契約書を見たものの譲渡禁止特約に気づかなかった場合、譲渡禁止特約について重過失の認定を受ける可能性が強いと言えないだろうか。また、譲渡禁止特約は、譲渡債権に関する当事者間の約定が一般的にそうであるように、債権の属性となり、譲渡に随伴して譲受人に承継される性質があると言えるから、譲受人がさらに第三者に債権を譲渡した場合の転得者についても、譲渡禁止特約が随伴して承継され、改めて転得者の主観的態様が問われることになると考えられる。また、その債権譲渡に際しては、実務上、基本的な契約書も譲受人から転得者に交付されるのが通常である。そうであれば、債権譲渡が繰り返されたとしても、譲渡禁止特約に対する取得者の主観的態様が改めて問題になるというべきである。

  11. デッドロック問題について
      そして、譲受人が譲渡禁止特約について悪意又は重過失である場合、債務者は、譲受人に対して弁済を拒絶することができるとともに、譲渡債権を喪失した譲渡人に対しても弁済を拒絶することができる。ここにデッドロック問題が発生する。改正法466条3項は、この場合にも、債務者は、譲渡人に対して弁済できることにした。その法的構成として、同項は、譲渡人に対して、債務者から弁済の提供がされた場合に、譲渡債権についての法定の受領権限を与えたものと説明されている(潮見・前掲399ページ参照)。

  12. 期限の定めのない債権の譲渡について
     改正法は、いろいろと工夫してデッドロックの解消を図っているが、明快な解決策が得られなかった論点がある。それは、期限の定めのない債権が譲渡され、その譲渡制限特約について譲受人が悪意又は重過失である場合、遅滞に付する請求(民法412条3項)をなしうる者が存在しなくなるという問題である。付遅滞ができなければ、譲受人が改正法466条4項の権利を行使して譲渡人への弁済を請求することもできない。
     この問題解決について,日本弁護士連合会編『実務解説改正債権法』は、「このような場合には、債権帰属者である悪意譲受人は、譲渡債権の取立権限を譲渡人に付与し、権限を付与された譲渡人が債務者に対して履行を請求することによって譲渡債権を遅滞に陥らせることが可能であるものと解される。」(255ページ)と説明する。しかし、譲受人自身が有しないところの取立権限を、他人である譲渡人に任意に付与することによって、その権限行使ができるという論理が成立可能か否かという問題がある。その「付与」という言葉の意味(委任ではないか?)も問題である。この論点については今後とも議論は続くと思われる。

以上

(2017年12月29日公開。2018年2月4日一部改訂)

PAGETOP

神戸きらめき法律事務所

〒650-0033
兵庫県神戸市中央区江戸町98番地の1 東町・江戸町ビル2階

初回法律相談30分無料 078-326-0151 平日 9:00〜18:00

24 時間メール受付お問い合わせ