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  • 2017.12.28

相続法改正について思うこと

村 上  公 一

  1.   現在、法制審議会民法(相続関係)部会において、相続法改正に向けた審議が行なわれている。しかし、これは、本年5月に法改正が成立した債権法の抜本的見直しと同じような意味で相続法についての抜本的な見直しをしているわけではない。本部会の審議の出発点となった法務大臣の諮問第100号は、一定の政治的契機に由来しており、配偶者の死亡により残された他方配偶者の保護を主たる検討課題としている。法律実務の現場からそのような改正への要望が生じたわけでもない。もっとも、本部会の審議の中で新しい論点が追加されたことによって、当初見受けられた狭さが少し緩和される展開となっている。
     ここでは、その「政治的契機」について言及するものではなく、相続法制に関し、民法(相続関係)部会が取り上げていない問題において抜本的見直しの必要性が存在していることについて述べる。

  2.    民法第4編(親族)及び第5編(相続)の規定は、戦後、昭和22年法律第222号によって改正され、全面的に平仮名・口語体に書き改められた。その改正作業では、家督相続制度の廃止、配偶者の相続権の確立という重要な改正がされた。これは、大きな構造的転換である。また、全面的に平仮名・口語体に書き改めるという外形的な変更もあったので、ここにおいて断絶的な変化が発生したと見る傾向はある。

  3.   しかし、新旧規定の連続性も重要な検討課題になる。昭和22年法律第222号による改正は、検討時間に制約がある戦後改革期における応急的な改正であったため、旧規定のうち憲法に抵触する部分を改めることが主眼にされ、憲法に抵触するという認識に至らなかった部分については従前の規律が踏襲された。そのため、特別受益、遺産分割、相続放棄・承認・限定承認、財産分離、相続人の不存在、遺言、遺留分といった相続法制の基本構造は、ほとんどそのまま維持されている。その後、相続法の一部改正(昭和37年法律第40号、昭和55年法律第51号)があったものの、そのような制度構造については抜本的な検討が加えられることがないまま今日に至っている。

  4.    このようにして、相続法においては、明治31年の立法当時の基本構造が維持されている制度が多く、見直されるべき点は多々あるが、ここでは、特別受益制度を取り上げる。
      まずは、改正前の旧規定1007条と現行民法の903条を対比してみると、改正前後を通じて規定の趣旨・構造が維持されていることが分かる。

    ・旧規定1007条1項「共同相続人中被相続人より遺贈を受け又は婚姻、養子縁組、分家、廃絶家再興の為め若くは生計の資本として贈与を受けたる者あるときは被相続人が相続開始の時に於て有せし財産の価額に其贈与の価額を加へたるものを相続財産と看倣し前3条の規定に依りて算定したる相続分の中より其遺贈又は贈与の価額を控除し其残額を以て其者の相続分とす。」(読みやすくするために、語句を維持しつつ文字を一部変更した。以下同様)
    ・現行規定903条1項「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」

    ・旧規定1007条2項「遺贈又は贈与の価額か相続分の価額に等しく又は之に越ゆるときは受遺者又は受贈者は其相続分を受くることを得ず。」
    ・現行規定903条2項「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」

    ・旧規定1007条3項「被相続人が前2項の規定に異なりたる意思を表示したるときは其意思表示は遺留分に関する規定に反せざる範囲内に於て其効力を有す。」
    ・現行規定903条3項「被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」
    このように、文章表現は改められているものの、規定の趣旨・構造が、そのまま維持されていることが分かる。

  5.   ところで、遺産分割事件(調停・審判)では、特別受益の有無が争点になることが多い。民法903条では、持戻しの対象となる受益の時期や規模についての明確な限定がないことから、様々な受益が特別受益であるとして主張され、事件を複雑化・長期化させる一因になっている。
     一般に、家族としての自然な情愛から相続人の生活や事業を支援するために金銭支出をした場合、後日の持戻しを想定しておらず、それを望んでいないのが通常である。そのため、裁判例の中には、相続人に対する生前贈与が特別受益に当たるかどうかが争点になる事案において、持戻し免除の黙示的な意思表示があったとの認定判断を示す裁判例が少なくない(大阪高裁平成19年12月6日決定・家裁月報60巻9号89頁、東京高裁平成8年8月26日決定・家裁月報49巻4号52頁など参照)。そのほかに、「遺産の前渡し」としての性質があるかどうかという基準を掲げて特別受益の該当性を判断する裁判例も少なくないが、それは、解釈上、条文に明記されていない要件を設定していることになる。
     このように、不都合な結論を避けるために技巧的な解釈操作を行なう裁判例が少なくないという状況があるということは、制度設計の見直しの必要性を物語っている。

  6.   さらに付言すると、民法903条は、特別受益に該当する行為として、遺贈と贈与を掲げるが、それ以外の行為態様による相続人の受益(たとえば、債務免除、不動産の使用貸借、保険金、遺族給付)については明文の規定がないので、議論が生じがちである(最高裁平成16年10月29日決定・民集58巻7号1979頁参照)。

  7.    頭を悩ます問題として、「法定相続分と具体的相続分の関係」という問題がある。特別受益の制度は、文言上、特別受益に該当する一定の事実があれば当然に相続分の修正(みなし相続財産の加算)が発生する制度として構成されている。これに対して、昭和55年の改正によって新設された寄与分の制度(904条の2)は、家事審判事項として構成されている。
      そのため、遺留分減殺請求に関する民事訴訟では、特別受益があれば考慮されるが(1044条、903条、904条)、寄与分は考慮されない。
     しかし、そのような差異を設ける合理性があるのか、昭和55年改正時にこの点がなぜ問題にならなかったのかという疑問が生じる。昭和55年改正に際して発刊された法務省民事局参事官室編『新しい相続制度の解説』(1980年、金融財政事情研究会)など当時のいくつかの文献を調べたが、この問題について言及する資料は見当たらなかった。

  8.    また、不動産等の遺産共有状態における持分割合は法定相続分(遺言による相続分の指定があるときは指定相続分。以下同様)の割合になるとされ、特別受益による相続分の修正は生じないことになっている。預貯金債権等を除いた通常の金銭債権は、法定相続分に応じて分割承継されるとされており、この場合も、特別受益による相続分の修正は生じないことになっている。さらに、最高裁は、遺産共有状態にある賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、「遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。」(最高裁平成17年9月8日判決・民集59巻7号1931頁)と判示しているが、ここでいう「相続分」とは、法定相続分の意味であると解されている。

  9.    このように見ると、法定相続分と具体的相続分の論理的関係は、分かりやすいものではない。この困難な問題に取り組んだ判例として、最高裁平成12年2月24日判決・民集54巻2号523頁がある。同判決は、次のように判示する。「民法903条1項は、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分又は指定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し、その残額をもって右共同相続人の相続分(以下「具体的相続分」という。)とする旨を規定している。具体的相続分は、このように遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、右のような事件を離れて、これのみを別個独立に判決によって確認することが紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできない。したがって、共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であると解すべきである。」

  10.    ここまで来ると、特別受益の認定判断を家事審判事項に改めることによって、寄与分制度とパラレルな法制度にしてよいのではないかという感想が生じるが、いかがであろうか。
      なお、最近、国土交通省の主導によって、「所有者の所在の把握が難しい土地」の利活用 の問題が検討されている。遺産分割や登記手続がなされないまま長年放置されている土地の相続関係を調査するうえで、旧親族法・旧相続法の知識が必要になることも多いが、残念ながら、旧法令についての良いデジタルデータは少ない現状にある。そこで、当事務所において整理した旧親族法・旧相続法のPDFファイルを掲載する。ご参考にしていただければ幸いである。

旧親族法・旧相続法(条文).pdf

(2017年12月28日)

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