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  • 2017.12.28

債権法改正の経緯と動向について

村 上  公 一

1  旧民法(ボアソナード民法)の制定
 明治政府では,不平等条約の改正が重要な外交政策上の課題であり,明治前期から民法典編纂を目指した取り組みが始められ,フランス民法典の翻訳などの試みがなされた。政府は,1879年(明治12年),ボアソナード(G.E.Boissonade,1825-1910)に対し,民法典草案の起草を依頼した。ボアソナードによって起草された原案は,司法省の法律取調委員会における審議を経て,1890年(明治23年)4月21日,法律28号(民法財産編,財産取得編(1章~12章),債権担保編,証拠編)として公布され,次いで同年10月7日,法律98号(人事編,財産取得編(13章~15章))として公布された。その際,旧民法は,1893年(明治26年)1月1日から施行されることが決まっていた。旧民法は,フランス民法典(1804年制定)をベースにしているが,単に敷き写されたものではなく,ボアソナード独自の創意工夫が盛り込まれている。法典の編成においても,旧民法は,財産編,財産取得編,債権担保編,証拠編,人事編の5編構成になっているが,この構成は,フランス民法典における編別方式とは異なる。また,編ごとに条文番号が起番されていることも特徴的である。

2  民法典論争と現行民法の立案作業
  その後,旧民法の施行をめぐって民法典論争が起きたため,1892年(明治25年)に「民法及び商法施行延期法律」が公布され,旧民法の施行が延期された。1893年(明治26年)2月,内閣直属の機関として「法典調査会」(総裁伊藤博文,副総裁西園寺公望)が発足した。起草委員として選任された穂積陳重(ほづみしげのぶ) (1856-1926),富井政章(とみいまさあきら)(1858-1935),梅謙次郎(うめけんじろう) (1860-1910)の3学者によって原案が起草された。

3  民法典の成立と施行
 現行民法典(以下「民法典」という。)は,2回に分けて公布された。まず,総則,物権,債権の3編(明治29年法律第89号)が1896年(明治29年)4月27日に公布され,次いで親族・相続の2編(明治31年法律第9号)が1898年(明治31年)6月21日に公布された。そして,民法典全体は1898年(明治31年)7月16日から施行された。なお,民法典は,この二つの法律から構成されているという見解も根強く存在するが,現在の法制執務では,明治31年法律第9号は明治29年法律第89号に対する追加的一部改正法であると理解されており,民法典の法律番号は,現在でも「明治29年法律第89号」である。

4   民法典の特徴
 民法典は,その立案の経過等に由来し,次の特徴があると指摘されている。
(1) 法の継受と外国法の影響
    民法典は,ヨーロッパからの輸入法である(いわゆる「法の継受」)。民法典を起草するに当たっては,修正されるべきたたき台として旧民法が検討されたほか,ザクセン民法典(1863年制定)のほか多数のヨーロッパ諸国の民事法制が参照された。当時未制定であったドイツ民法典(1900年制定)は,第一草案が参照された。しかし,日本固有の法観念や法慣習はあまり顧慮されなかった。法典の編成は,旧民法の編別方式とは全く異なるパンデクテン方式であり,少なくとも形式面ではドイツ式であるから,過去にはドイツ法の影響が強いと見られていた。しかし,今日の知見によると,民法典は,旧民法をベースにした「修正」作業の結果として,旧民法の規律の半分以上が維持されており,フランス法・ドイツ法をベースにした混合的な形態であり,条文によっては,イタリア法,イギリス法の影響も混在しているとされている。
(2) 分かりにくい民法
    民法典の起草作業では,旧民法に対してなされた批判を踏まえ,定義,原則,説明,解釈方法などの規定を極力省略し,条文を簡素化した。そのため,原則を定めた条項がなく例外だけを規定するようなこともあり,「条文に書かれていない原則」というものも少なくない。このようにして,国民が読んで分かりにくい民法になっている。ヨーロッパ諸国の民法典に比べて条文数が少ないということも指摘されている。
(3) 解釈論の肥大化
   このように条文の文言の情報量が不十分であることから,条文が語っていない部分を解釈論によって埋める作業が必要となり,解釈論に大きな比重がかかる構造ができた。さらに,民法典は,近時,成年後見制度の改正(平成11年),担保・執行法制の改正(平成15年),条文の現代語化・保証制度の改正(平成16年),法人制度改革に伴う改正(平成18年)などの部分改正はなされたものの,財産法についての全般的な見直しは行なわれておらず,制定当時の規定がかなり維持されてきた。その間,判例法理が蓄積されているため,条文の情報量に比して,解釈論の情報量が厚くなってきた。
(4)  用語の問題
   民法典の起草に際しては,従前の日本になかった外国法の観念を日本語で表現する必要から,新しく用語を造るなどの工夫をした。当時,「債権」の語も定着した用語ではなく,旧民法では,債権の意味で「人権」の語が用いられていた。外国の法律用語を日本語に訳したときに,不自然な訳語が生じ,あるいは意味にずれがあるために誤解や違和感が発生することがある。

5  民法制定後の学説継受とその批判
 民法制定後の展開として,わが国では,明治40年前後から,ドイツの学説が急速に紹介され,導入された(学説継受)。そのため,本来,ドイツ民法に由来していない民法の規定もドイツ風に読み込む解釈が通説化した。その顕著な例の一つとして,債務不履行制度の理解がある。伝統的学説は,債務不履行には,履行遅滞,履行不能,不完全履行の3類型があると解したうえで(三分説),債務不履行は,過失責任主義に立脚した規定であるから,3類型全部について「帰責事由」が必要であり,その帰責事由とは,「故意・過失又は信義則上これと同視すべき事由」であると解した。ドイツ法優位の時代は,第二次世界大戦後も続いたが,昭和40年ころから,様々な形で批判的研究が生れ,少なくともドイツ学説を直輸入するような風潮は崩れていった。

6  戦後における民法典改正
 戦後における主要な民法一部改正(民事特別法を除く。)は以下のとおりである。
・1947年(昭和47年) 家族法全面改正。総則篇の信義則・権利濫用を明文化
・1962年(昭和37年) 失踪宣告(30条,31条),同時死亡の推定(32条2),特別縁故者制度(958条の3)などを規定
・1966年(昭和41年) 地下・空間地上権の設定
・1971年(昭和46年) 根抵当権に関する規定の新設
・1976年(昭和51年) 離婚復氏(767条2項)
・1979年(昭和54年) 準禁治産者の範囲の改定,公益法人の監督強化
・1980年(昭和55年) 法定相続分の改定(900条,寄与分制度の新設(904条の2)
・1987年(昭和62年) 特別養子制度(817条の2以下)を規定
・1999年(平成11年) 成年後見制度(無能力者制度)の改正
・2003年(平成15年) 担保・執行法制の改正
・2004年(平成16年) 民法の現代語化(口語化),保証制度の改正
・2006年(平成18年) 法人制度の大改正(法人の条文はほとんどを削除)
・2011年(平成23年) 親権の効力,親権の喪失制度,未成年後見制度,離婚後の子の監護に関する事項の定めの改正
・2013年(平成25年) 民法900条4号ただし書(非嫡出子の法定相続分)の一部改正(平成25年法律第94号)。平成25年12月5日成立(同月11日公布・施行)
・2016年(平成28年) 成年後見人制度の改正(議員立法)(平成28年法律第27号)。平成28年4月6日成立,同月13日公布
・2016年(平成28年) 女性の再婚禁止期間の改正(平成28年法律第71号)。平成28年6月1日成立,同月7日公布・施行

7  民法の抜本改正についての研究
(1)  民法施行から概ね100年が経過した頃から,複数の学者グループによって,民法の抜本改正に関する自発的な研究がなされる動きが生じた。特に著名な研究会は,民法改正研究会(代表・加藤雅信)(2005年10月発足)と民法(債権法)改正検討委員会(委員長・鎌田薫,事務局長・内田貴)(2006年10月発足。以下「検討委員会」という。)である。法務省は,2006年(平成18年)2月ころ,債権法改正の方針を表明した。そして,債権法改正についてのたたき台を得ることを想定して法務省民事局のスタッフを検討委員会の活動に参加させた。
(2)  検討委員会では,財産法の中で契約債権法を取り扱うことにした。そこでは,法定債権(事務管理,不当利得,不法行為)の規定は検討対象から外すが,民法総則のうち,法律行為,意思表示,代理,時効などの規定は検討対象とするという方針を採用した。これは,その後の法制審議会民法(債権関係)部会における審議方針と一致している。
(3)  検討委員会は,2009年4月,「債権法改正の基本方針」(別冊NBL126号)を公表した。その個々の提案は,その採否の結果は別として,その後の法制審議会の審議において,検討対象として取り上げられ,議論の素材となり論点を形成している。

8  法制審議会における審議について
(1) 法務大臣の諮問と民法(債権関係)部会の設置
  法制審議会は,2009年(平成21年)10月28日開催の第160回会議において,「民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について,同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り,国民一般に分かりやすいものとする等の観点から,国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので, その要綱を示されたい。」という法務大臣の諮問第88号を受け,民法(債権関係)部会を設置して調査審議することを決定した。
(2) 民法(債権関係)部会の審議について
  民法(債権関係)部会は,同年11月24日開催の第1回会議において審議を開始し,2015年(平成27年)2月10日開催の第99回会議(最終)において,「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」を取りまとめた。そこに至るまでの中間の過程において,「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」(平成23年4月12日開催の第26回部会),「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(平成25年2月26日開催の第71回会議)が取りまとめられ,それぞれについてパブリック・コメントに付された経緯がある。
(3) 要綱の採決
  2015年(平成27年)2月24日開催の法制審議会総会(第174回会議)において,部会の審議結果を受け,「民法(債権関係)の改正に関する要綱」を採決した。同総会の閉会後,同要綱は法務大臣に答申された。

9  法案提出と国会における審議について
(1)  平成27年3月31日,閣議決定を経て,「民法の一部を改正する法律案」(内閣提出法案第63号)及び「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」(内閣提出法案第64号)(以下「本改正法案」と総称する。)が第189回通常国会に提出された。
(2)  その後,国会では,与野党対決法案の審議があり,本改正法案の審議が長らく先送りされてきたが,本改正法案は,衆議院で平成29年4月14日に可決され,参議院で同年5月26日に可決されて法律として成立し,平成29年法律第44号及び同第45号として同年6月2日に公布された。施行期日は,2020年4月1日に決まった(政令第309号)。

10  重要な改正事項の概観
  本改正における改正事項は多岐に及んでいるが,特に重要な事項を列記すると次のとおりである。
(1)  消滅時効制度に関する規律の整理
(2)  法定利率の改正(年5%から年3%に変更。利率変動制)
(3)  債務不履行による損害賠償請求権に関する規律の明確化
(4)  契約解除の要件に関する見直し
(5)  債権者代位権に関する見直し
(6)  詐害行為取消権に関する見直し
(7)  保証人保護の方策の強化
(8)  債権譲渡に関する規律の見直し
(9)  相殺に関する規律の見直し
(10)  契約の成立に関する規律の現代化
(11)  約款(定型約款)に関する規定の新設
(12)  危険負担制度の見直し
(13)  売買の担保責任に関する規律の再構成
(14)  消費貸借の成立要件の見直し
(15)  賃貸借に関する規定の補充
(16)  請負人の担保責任に関する規律の再構成

(2017年12月28日)

  

                                                                                                                                       

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